『夜明けの縁をさ迷う人々』 小川 洋子さん作

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小川 洋子さん作『夜明けの縁をさ迷う人々』を読みました。小川洋子さんと言えば映画化もされた『博士の愛した数式』の作者です。長編小説も好きですが、彼女の作品は短編が特に好きです。

彼女の小説は、美しい日本語の文章と人物や風景の描写がとても上手で、まるでフランス映画を見ているよう気にさせてくれます。そして、小川洋子さんの小説は、現実と虚構のバランスが絶妙です。少しファンタジーにも思える設定でも何故か実際にそんな事がありえるのではないかと思わせます。たとえば、今回の短編でも、楽器を素晴らしく調律する涙を出し、それを売る事で生計を立てている女性と身体の一部を楽器にする楽団の人々など、現実にはいるはずない人々もこの世界のどこかにいるのではないかと思ってしまうのです。また、中華レストランビルのエレベーター内で生まれ、そこで生活をしている身体の小さなエレベーターボーイがどこかに生息していると、いつのまにか心のどこかで本気で思ってしまう、いや願ってしまうのです。

小川洋子さんの小説は優しい雰囲気でありながら、登場人物は少し毒を持っている人もいます。その人物像は浮世離れしているというよりは微かな狂気を孕んでいると言った方が良いでしょう。他の人物や作者からそのような人に対する感情は全く感じ取れません。あくまで淡々と描写されています。

小説のおすすめポイントはもちろん、美しい文章と日常よりわずか数センチだけ現実離れした舞台設定だと思います。独特な雰囲気にハマる人は多いと思います。ただ、あまり没頭すると現実との境目が曖昧になってくるかもしれません。そんなあやしさが彼女の小説にはあります。